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当社の考え

2025/10/30

東南アジアが示す“成長と持続”の両立―日本が失った循環をアジアは掴み始めている

いま、東南アジアの国々は驚くほどのスピードで発展しています。フィリピン、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール等々。街は拡張を続け、工業団地が次々と整備され、若い世代が中心となってデジタル経済を牽引しています。その姿は、まさにかつての日本の高度経済成長期を思わせます。日本の製造業が世界市場を席巻し、家電・自動車・鉄鋼が国の象徴であった時代。東南アジアは、その成功モデルを丹念に学び、自国の発展の道筋として吸収してきました。しかし彼らは、同時に日本の“つまずき”も冷静に見ています。大量生産・大量消費による資源浪費、都市への一極集中、経済のスピードに追いつけなかった環境政策、そして成長の果てに訪れたデフレと停滞――。日本がたどった道は、東南アジアにとって「成功の教科書」であると同時に、「反面教師の記録」でもあるようです。タイの政策担当者が「日本の失敗から学ぶことは多い」と語るように、東南アジアは日本の“量的成長”の先にある落とし穴を見据えています。そして今、彼らが選ぼうとしているのは、かつての日本が歩まなかった「持続的な成長」への道です。



成長の勢いの中にある“環境への意識”

東南アジアの街並みを見渡すと、急速な開発の一方で、どの国も共通して「環境」への配慮を政策の中核に据え始めていることに気づきます。ベトナムでは、政府主導で「グリーン成長戦略(National Green Growth Strategy)」が進められ、再生可能エネルギー投資の拡大が加速しています。マレーシアでは「循環経済ロードマップ」を策定し、廃棄物ゼロ社会を国家目標に掲げました。インドネシアは森林資源を守りながら、バイオマスエネルギーや海洋プラスチック対策に力を入れています。彼らが掲げるキーワードは、もはや“エコ”や“環境保護”にとどまりません。そこには明確な経済戦略としての「サステナブル」「グリーン産業」「サーキュラーエコノミー」という視点があります。かつての日本が「経済と環境は対立するもの」と捉えていたのに対し、東南アジアの多くの国々は「環境こそが成長のエンジンになる」と認識しているのです。たとえばベトナムでは、繊維・アパレル産業が欧州市場の環境基準(EUグリーンディール)に適応するため、再生繊維の導入が加速しています。フィリピンでは、建設資材分野でリサイクル素材の活用が進み、地方自治体レベルでも“ごみを出さない都市開発”が進行中です。これらの動きは単なる環境対策ではなく、輸出競争力を維持するための戦略的な投資なのです。



“量の成長”から“循環の成長”へ



日本がかつて経済成長を追い求めた時代、環境問題は「後から解決すればいい」と考えられていました。ところが、地球温暖化、異常気象、資源制約という現実の前に、今やその発想は通用しません。東南アジアの政策担当者の多くは「環境対応は将来へのコストではなく、今の成長を支える条件」だと語ります。つまり、彼らにとって“サステナブル”は「経済を支える基盤」なのです。その発想の中心にあるのが、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」です。廃棄物を資源として再利用し、資源消費を最小限に抑えながら新たな価値を創り出す。シンガポールでは「ゼロ・ウェイスト・ネーション」を掲げ、廃棄物発電や下水の再生利用を国家インフラとして整備しました。タイでは「BCG(Bio-Circular-Green)経済モデル」を推進し、農業・バイオ・再生可能エネルギーを結びつけた産業再編を進めています。これらは、かつて日本が築き上げた製造業主導の成長モデルを踏まえつつ、それを“循環”という文脈に転換した新たな成長戦略です。大量生産・大量廃棄ではなく、循環によって雇用を生み、資源を再生し、地域経済を活性化する。そこには、「量の成長」から「循環の成長」へという確かなパラダイムシフトがあります。



日本が学び直すべき“成長の哲学”



一方の日本は、これらの国々を支援する立場にありながら、皮肉にもその成長哲学を再び学び直す段階に立たされています。日本の高度成長期は世界のモデルでしたが、その後の停滞は「成熟=安定=動かない」という固定観念を社会に根づかせました。デフレに慣れきった社会では、挑戦がリスクと見なされ、変化への恐れが先立ちます。しかし、東南アジアの現場を見ると、彼らは“失敗を恐れない”文化を持っています。失敗を許容し、次の挑戦に転化するスピードが速い。日本が「慎重さ」を美徳として積み重ねてきたのに対し、彼らは「行動する勇気」を重んじています。その違いが、今の勢いの差として表れています。それでも、東南アジアの多くの政策担当者は「日本のような社会を目指したい」と口を揃えます。安心して暮らせる社会、環境に優しく、秩序ある都市空間、教育とモラルの高さ。彼らは、日本の成熟した社会の姿を“理想”として見ています。つまり、日本はもはや“追われる側”ではなく、“導く側”としての役割が期待されているのです。



成熟と成長をつなぐ架け橋として



東南アジアの成長は、日本の過去を映す鏡でありながら、未来へのヒントを与えてくれます。彼らは日本の成功を模倣するだけではなく、日本がつまずいた理由を分析し、同じ轍を踏まぬように環境と経済の両立を実現しようとしています。日本がいま直面している課題――低成長、賃金停滞、エネルギー依存、人口減少――は、成長期の勢いでは解決できません。必要なのは「循環」という視点です。資源の循環、地域の循環、そして人の心の循環です。サーキュラーエコノミーの実現は、そのすべてをつなぐ鍵になります。東南アジアの挑戦がそれを証明しつつある今、日本こそがもう一度、自らの哲学をアップデートしなければなりません。成熟とは終わりではなく、新たな始まりです。日本が環境と共生しながら新しい経済循環を描き出すことができれば、かつて世界が日本に学んだように、再びアジアが“未来の日本”から学ぶ時代が来るでしょう。静かな国の中で、再び豊かさの循環が回り始める――その時こそ、日本の真の成熟なのではないかと思います。







執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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