当社の考え
2025/10/10
いのち輝く未来社会を歩いて─大阪・関西万博で感じたこと
10月13日に「2025大阪・関西万博」も閉会を迎えます。そんな中、娘と二人で万博の会場となる夢洲を訪れました。「いのち輝く未来社会のデザイン(Designing Future Society for Our Lives)」というテーマを、どうしても自分の目と肌で感じておきたいと思い立ったからです。夢洲駅を出た瞬間、目の前に広がったのは、まさに「人の海」でした。どこを見ても人、人、人。パビリオンもレストランも、そしてお土産売り場までもが朝から長蛇の列。それでも不思議と、その光景は「活気」という言葉でしか表せない明るさを帯びていました。人々が未来への期待を胸に、この地に集っている。その熱量を体ごと浴びるような感覚がありました。
大屋根リングの上で見た「現在」と「未来」
混雑を避けるため、娘とはあらかじめ「展示を見ることに固執せず、大屋根リングの雄大さとe-Moverを体験しよう」と話していました。大屋根リングに上がると、通路の両側はまるで壁のように人で埋まり、前を行く人の足元を見ながら一歩ずつ進む状態でした。人波に揉まれながら歩くうちに、感動よりも息苦しさを覚えましたが、ようやく海沿いの地点にたどり着いたとき、風が抜け、視界が開けました。内側には、人々が群れ、動き、歓声を上げる「未来の社会」があります。外側には、大阪湾を悠々と行き交うタンカーや貨物船、コンテナ船が見えました。人が描く未来の夢と、今を支える現実の営み。そのコントラストに、私は深く心を動かされました。未来はこの現在の上にしか立ち上がらない。しかしこんな雑踏の未来は嫌だなと。海を眺めながら静かに思いました。
e-Moverに乗って──「動く未来」と「語る今」
大屋根リングを東ゲートから西ゲートまで歩き切った後、念願のe-Moverに乗りました。私たちは「完全自動運転」を期待していましたが、実際には運転手さんが操作していました。それでも、会場をぐるりと一巡するその時間は、穏やかで楽しいものでした。運転手さんは、会場での最近の出来事や話題を交えながら、各エリアを紹介してくれました。その説明を聞きながら、私はふと気づきました。――私たちはいつも「次のこと」「先のこと」ばかりを考えて生きているのではないかと。人よりも早く、効率よく、損をしないように。そんな思考が日常のほとんどを占めているように思いました。しかし、このe-Moverのゆったりとした速度の中で、私は「今この瞬間」をじっくり味わう感覚を思い出しました。景色が少しずつ変わり、風が頬をなで、会話が自然に弾む。その穏やかさの中にこそ、本来の「いのち輝く未来社会」の原点があるように思えたのです。
待つことの中にある「時間の豊かさ」
人混みの中にいると、私たちはすぐに焦ります。「列が長い」「渋滞している」「時間がもったいない」――そんな言葉が頭をよぎり、つい動き回って回避策を探してしまいます。けれど、娘と話しながら改めて思いました。立ち止まり、待つ時間にも意味があるのではないか、と。焦らず、動かず、ただその瞬間を受け入れる。人の波に身を任せる。それは決して「諦め」ではなく、「感じる」という行為なのだと思います。風の流れ、会場のざわめき、子どもの笑い声、そして隣を歩く娘の存在。どれもが「今」という時間を構成している尊い要素です。実は、私の性格も、そして娘の性格も、「焦らずにじっと見つめる」ことを大切にするところがあります。この日、私たちは人の流れの中で、その「立ち止まる勇気」を確認し合うような一日を過ごしました。
世界が示す「本気のサステナブル」
昼はオーストリア館でランチを取り、夕食はチェコ館でいただきました。帰り際には、少しだけ足を伸ばしてUEA館、北欧館、ベトナム館、カタール館にも立ち寄りました。いずれのパビリオンも共通して掲げていたのは、「サステナブル」「サーキュラー」「エコ」「脱CO2」といったテーマでした。その展示やメッセージには、どこか本気の熱が感じられました。日本では、これらの言葉が一時の流行のように扱われ、「グリーンウォッシュ」と揶揄されることも少なくありません。しかし、各国のパビリオンでは、理念ではなく「実践」としての姿勢が明確に示されていたのです。
世界は決してこの挑戦を諦めていない――そう強く感じました。
Rebornfiber®とともに歩む「兆し」
私は現在、再生繊維フェルト「Rebornfiber®」の開発・普及に取り組んでいます。今回の万博を通して、その意義と方向性を改めて確信しました。最近、国内でも少しずつRebornfiber®へのお問い合わせが増えています。最初は「情報を聞くだけ」といった方々が、「まずはコースターを注文してみよう」と小さな一歩を踏み出すようになってきました。それはまるで、世界が掲げるサステナブルの精神と呼応するような「小さな動き」のように感じられます。日本の人々もようやく、「まずは動いてみよう」「関わってみよう」と考え始めているのかもしれません。それは決して派手な変化ではありませんが、確かな「兆し」です。私たちはその芽を焦らず、急かさず、大切に育てていく必要があります。点が線となり、線が面となり、やがてトレンドへと広がっていく。その流れを絶やさずに繋いでいくことこそ、私たちの責任であり、使命であると感じています。サステナブルの本質とは、循環の中に「継続」を宿すこと。Rebornfiber®の理念もまた、そこにあります。
「言い出しっぺ」としての責任
サステナブルな社会を語るとき、誰もが理想を掲げます。けれど、それを実際に動かすには、誰かが「最初の一歩」を踏み出さなければなりません。その役目を「言い出しっぺ」と呼ぶなら、私たちはまさにその立場にあります。言い出した者には、最後まで続ける責任があります。焦ることなく、諦めることなく、兆しを絶やさずに未来へつなぐ――それが、私の信じる「いのち輝く社会」への貢献の形です。
大阪湾の水平線に沈む夕陽を見つめながら、私は思いました。
未来は、遠くにあるものではなく、私たち一人ひとりの中にすでに芽生えているのだと。
その小さな芽を、どう守り、育てていくか。
万博の一日は、まさにその問いを私に投げかける体験でした。