DOWNLOAD

資料ダウンロード

当社の考え

2025/10/02

異常気象の頻発と企業経営 ー被害を減らす時代におけるリスクと投資判断

ここ数年、私たちは異常気象の猛威を、身をもって体験しています。40度を超える猛暑、記録的な豪雨、干ばつや台風の激甚化。これらはもはや「異常」ではなく「日常のリスク」となりつつあります。この夏も連日の猛暑により、熱中症搬送者が過去最多を記録し、農作物は高温や豪雨の影響で収量が大きく落ち込みました。気候変動は遠い未来の脅威ではなく、すでに私たちの暮らしと経済を直撃しているのです。科学的な分析でも、地球温暖化が進めば気象現象はさらに極端化することが明らかにされています。つまり、今後10年は「影響を抑える」段階ではなく、「被害をいかに減らすか」という現実的な適応策が社会全体に求められるのです。この流れは、個人の生活や行政だけでなく、企業経営そのものの前提を根底から変えるものだと私は考えます。



社会インフラと経済活動への打撃

異常気象は社会インフラに深刻な影響を及ぼしています。都市部ではゲリラ豪雨による浸水や停電が頻発し、物流やサプライチェーンはたびたび寸断されています。農村では干ばつや洪水で収穫が不安定となり、食料価格が上昇します。こうした状況は、企業活動に直接的なコスト増として跳ね返ってきます。これまでのインフラ設計は「平常時の効率性」を重視してきましたが、これからは「非常時の耐性」を組み込むことが不可欠となっています。電力網や通信網の冗長性確保、洪水対策としての治水事業、そして都市のグリーンインフラ整備。これらは公共事業にとどまらず、企業の投資判断にも直結します。たとえば、新工場をどこに建設するかという意思決定において、気象リスクは財務諸表の数字以上に重要な変数となりつつあるのです。集中化から分散化。BCPが不可欠です。



農業と食料供給への影響 ─ ビジネスの基盤を揺るがすリスク



農業は異常気象の影響を最も直接的に受ける分野です。猛暑や豪雨、干ばつは収穫量を減少させ、食品価格の変動を引き起こします。その影響は農家にとどまらず、食品メーカー、外食産業、小売業、さらには消費者全体に波及します。企業の経営環境は、こうした不安定な供給構造によって大きく揺さぶられます。経営者の立場から見れば、このリスクは単なる自然現象ではなく「事業存続に直結する経済リスク」です。原材料価格の高騰は利益率を圧迫し、サプライチェーンの断絶は市場シェアを一気に失うことにつながります。ここで必要なのは、農業技術の革新や食料調達の多様化を視野に入れた投資判断です。AIやIoTを用いたスマート農業、耐候性品種の開発、都市型農業への投資。これらは農業だけでなく、食品関連全体の産業構造を変える可能性を持っています。



企業に突きつけられるリスクマネジメント



異常気象は企業にとって「見えにくいコスト」を次々に顕在化させます。サプライチェーンの分断、工場の操業停止、従業員の健康被害、物流の停滞──いずれも売上や利益に直結するリスクです。これに対して、従来型のリスクマネジメントはもはや十分ではありません。経営者として重要なのは、異常気象を「外部要因」ではなく「経営変数」として組み込むことだと思います。事業継続計画(BCP)の策定、複数拠点の分散生産、エネルギー源の多様化など、リスク分散の仕組みを経営戦略に組み入れる必要があります。さらに投資家の視点からは、企業が気候リスクをどう認識し、どう対応しているかが投資判断の大きな材料になっています。環境情報の開示やシナリオ分析を怠れば、資金調達コストの上昇や株主からの圧力に直面するでしょう。異常気象の時代には、リスクを軽視する企業は市場から淘汰され、逆に適応策を積極的に進める企業は信頼を獲得します。気候リスクへの取り組みは、もはや「選択肢」ではなく「存続条件」なのです。



投資判断と成長機会 ─ 「守り」から「攻め」へ



いまや、被害を減らすことは守りの施策であるのではなく、成長のための「攻め」の投資であります。例えば、断熱材や吸音材といった建材の需要は、猛暑や騒音問題への対応策として拡大しつつあります。再生エネルギーや水資源管理技術も、異常気象への適応策として社会から強く求められるようになっています。私は経営者として、環境課題への投資は「負担」「コスト(費用)」ではなく「未来市場への参入」と捉えています。短期的には利益率を押し下げるかもしれませんが、中長期的には事業基盤を強化し、新たな需要を取り込む力になります。異常気象の時代における投資判断は、「被害を防ぐ」だけでなく「新しい価値を生み出す」ための挑戦なのです。



事業継続性への投資としての異常気象対応



異常気象の頻発は、単なる自然現象ではなく、企業経営の存続条件を揺さぶる現実です。確かに先の見えないリスクに対しては、投資をためらい「ケチる」経営者も少なくありません。しかし、事業の継続性とは単に数字を維持することではなく、お客様を守り、役職員やその家族を守り、協力会社や仕入先を守り、さらに地域や社会を守ることに他なりません。これらを守り抜いて初めて企業は存在を許され、信頼を得て継続できるのです。だからこそ、異常気象への対応は「後回しにしてよい余剰の課題」ではなく、経営の根幹に組み込むべきものです。積極的に関わり、先んじて対処する姿勢は、企業の社会的責任を果たすだけでなく、事業を持続させる唯一の道でもあります。まさにこれは、将来に向けた「Going Concern」としての投資であり、企業が未来に生き残るための必須条件なのです。異常気象の時代において、経営者に求められるのは短期的な収支に固執する姿勢ではなく、未来を見据えて投資を決断する胆力です。その姿勢こそが、社会からの信頼を勝ち取り、次世代に企業を引き継ぐための最大の資産になると、私は確信しています。







執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




株式会社GREEN FLAG トップページ