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当社の考え

2025/09/26

労働人口の減少と人財戦略 ー 少子高齢化が突きつける現実

日本はかつて世界第2位の経済大国として、人口増加と高度成長の波に乗り発展を遂げてきました。しかし、今や状況は一変し、少子高齢化という歴史的な構造変化に直面しています。1995年をピークに生産年齢人口は減少に転じ、現在も右肩下がりの状態が続いています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には労働人口は総人口の半分を大きく割り込み、社会全体のバランスは大きく崩れると見込まれています。この現実は単なる人口統計の変化にとどまらず、企業経営や社会の持続可能性に直結する問題です。今までは「働き手が足りなくなれば残業や臨時雇用で補う」といった対応で何とか乗り切れました。しかし今や、その発想では追いつかない規模の人材不足が押し寄せています。今後10年は「影響を抑える」段階ではなく、「どう対策を講じるか」という喫緊の課題に移行しているのです。経営者はこの現実を直視し、事業戦略に反映させなければなりません。



深刻化する現場の人手不足

すでに日本各地で、人手不足の影響は生活の隅々に現れています。介護施設では慢性的な人員不足から過重労働が常態化し、利用者へのサービス低下が避けられません。建設業界では現場の高齢化が進み、後継者不足が深刻です。農業では担い手不足によって耕作放棄地が拡大し、物流業界では「2024年問題」に象徴されるようにドライバー不足が深刻化しています。製造業でも夜間稼働やライン維持が難しくなりつつあります。中小企業にとって、この状況はより切実です。大企業に比べ賃金や福利厚生で劣るため、優秀な人材を確保するのは一層困難です。その結果、納期を守れない、営業時間を短縮する、売上が落ちる、信頼を失う──こうした悪循環が現実の経営リスクとして顕在化しています。さらに問題を複雑にしているのは、若者の就労観の変化です。夜勤や単調作業、体力を要する仕事を避ける傾向は強まっており、「賃金を上げれば若者が戻ってくる」という単純な構図は成り立ちません。彼らにとって重要なのは賃金水準だけではなく、「働きがい」「自己成長」「ライフスタイルとの両立」といった要素です。こうした価値観の変化を踏まえずに「日本人が働けば解決する」と考えるのは現実的ではありません。



移民受け入れを巡る議論と現実



こうした中で議論されるのが、移民受け入れの是非です。すでにコンビニの店舗運営や工場の夜間稼働、外食産業、農業などは、多くの外国人労働者に支えられています。彼らがいなければ日常生活は回らず、社会インフラそのものが機能不全に陥るでしょう。一方で、「移民は日本人の労働機会を奪う」との反対論も根強く存在します。また「賃金を上げれば日本人がその職を担う」という意見もあります。しかし、現実には労働観の変化が大きく、賃金上昇だけで若者が夜勤や単純労働を担う保証はありません。むしろ敬遠される仕事を担っているのが外国人労働者であり、彼らが日本社会を下支えしている事実を冷静に認識すべきです。経営者の立場から考えるなら、移民を「安価な労働力」として消費する時代は終わらせなければなりません。日本で働く間に技術や文化を学び、それを母国に持ち帰って自国の発展に役立ててもらう。そうした交流こそが、日本にとっても大きな資産となります。外国人材を育てることは単なる人手不足解消ではなく、国際社会における信頼関係を築く外交的な営みでもあるのです。



技術革新と多様な人材活用



もちろん、労働人口減少を外国人材だけで補うことには限界があります。ここで不可欠になるのが、技術革新と多様な人材活用です。AIやロボット技術の進展、RPAによるバックオフィス業務の効率化、自動運転やドローンを活用した物流──こうした技術はすでに現実的な選択肢となっています。中小企業にとっても、省人化への投資は避けられない時代になりました。さらに、多様な人材の参加を促すことも重要です。高齢者が経験を活かして働ける仕組み、子育て中の女性が柔軟に働ける環境、障害を持つ人々が能力を発揮できる職場。こうした取り組みは「社会的配慮」ではなく、企業の競争力を高める現実的な手段です。人口減少下では、一人ひとりの労働参加が企業存続を左右します。働き方を柔軟に設計することは、コストではなく投資として位置づけなければなりません。



人を育て、人財を未来につなげる



労働人口減少の本質的な課題は「人がいない」ことではなく、「人を育て、どう活かすか」です。経営とは数字を守ることではなく、人を守り、育て、未来につなぐことです。お客様を守り、役職員とその家族を守り、協力会社や仕入先を守り、地域や社会を守る。その根幹に「人財」を据えなければなりません。外国人労働者についても、単なる労働力として扱うのではなく、日本の技術を学び、それを母国に還元しつつ、日本との絆を深めていく存在と捉えるべきです。これは国際社会における責任ある姿勢であり、同時に日本自身の将来を支える基盤となります。そして日本人の若者に対しては、教育と能力開発の機会を提供し、スタートアップの創業や企業内起業を通じて新しい技術や市場を切り拓く挑戦を促すことが求められます。夢や希望を持ち、自らの力で未来を築ける「ジャパニーズドリーム」を描かせることこそが、この国の最大の再生力です。若者に夢を与えられない社会に未来はありません。

労働人口の減少は避けられない現実です。しかし、人を育て、人財として未来に託すことで、日本は再び成長の道を歩むことができます。教育と育成に投資し、国内外の人々と共に未来を築くこと。それは単なる経営戦略ではなく、社会に生きる私たち全員が次世代に渡すべき責任であり、希望の証そのものなのです。







執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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