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当社の考え

2025/09/08

正義をひっくり返す戦争の愚かさと、人間の未来への希望

「何のために生まれて、何をして生きるのか」

この問いは、アンパンマンのテーマソングに込められたメッセージであり、戦争を経験した漫画家・やなせたかし氏が生涯かけて向き合った命題です。若き日のやなせ氏は、「中国人民を開放するためだ」という大義名分を信じて出征しました。しかし、終戦後に知らされた事実は、日本は中国を“侵略”していたというものでした。自分たちが正義だと信じていた戦争が、実は加害の側だった。――この事実が、やなせ氏の内側を根底から揺さぶります。

「正義の戦争など存在しない」

これは、やなせ氏が実体験を通じて導き出した痛烈な結論です。敵にも味方にも家族があり、やりたくもない殺し合いに駆り出され、やらなければ自分が殺されるという状況。そんな地獄のような現実の中に、どんな“正義”があるというのでしょうか。そして、やなせ氏はこう続けます。「ある日を境にして逆転してしまう正義は、本当の正義ではない」戦争とは、まさにそういうものです。一方の「正義」が、ある瞬間に「侵略」へと変わる。どんな大義も、武力と暴力で押し通された瞬間に、その正当性は崩壊するのです。



正義を掲げて人を殺す、その矛盾



戦争とは、人を殺す行為です。しかもそれは、「国のため」「民族のため」「神のため」「平和のため」といった、耳障りのよい“正義”の名の下に行われます。けれども、どんな理由があろうとも、人を殺すという行為は絶対に正義にはなり得ません。やなせ氏は、「自爆テロも戦争と同じ」と語っています。自分を犠牲にして他人を傷つける行為は、いかなる信念を掲げようとも「正義」とは呼べないのです。

正義とは、人を殺すことで実現されてはならない。正義とは、人を傷つけて獲得するものではない。では、どこに“ひっくり返らない正義”があるのでしょうか? それは、やなせ氏が示したように、とてもシンプルな行為の中にあります。

・お腹を空かせた人に食べ物を分けること

・泣いている人のそばにいること

・苦しんでいる人に手を差し伸べること

そこには敵も味方もありません。国籍も、宗教も、肌の色も関係ありません。目の前の誰かが苦しんでいたら、その人を助ける。そこにこそ、戦争では決して得られない本当の正義があるのです。



戦争が生むのは「死」と「分断」だけ



戦争は、莫大なコストを伴います。兵器の製造、軍隊の維持、破壊された都市やインフラの復旧費用。経済的損失は計り知れず、何よりも奪われた命や失われた未来は、決して金銭で取り戻せるものではありません。戦場に赴く兵士だけでなく、罪のない子どもや老人、日々の暮らしを営んでいた市民が、命を落とし、家族を失い、故郷を追われていきます。戦争は「敵と味方」という単純な構図では済まされません。すべての人間が、直接的あるいは間接的に傷つくのです。そして、もうひとつの恐ろしさが「分断」です。戦争によって、民族と民族、宗教と宗教、国家と国家、人と人との間に亀裂が走ります。信頼は失われ、対話は閉ざされ、怒りと憎しみだけが次の世代に受け継がれていくのです。やなせ氏が描いたアンパンマンは、敵であっても傷ついていれば助ける存在です。戦争とは、その正反対です。敵とみなした瞬間、命を奪ってもよいという論理がまかり通る。その非人間的な思考こそが、戦争の最大の罪ではないでしょうか。



本当の強さとは、やさしさである



やなせ氏が描いたヒーロー、アンパンマンは、強くありません。顔をちぎって誰かに与え、倒れてしまうこともある。それでも彼は、自分を削ってでも他者を生かそうとします。これは、現代の「戦争による抑止力」論に対する明確な反論でもあります。

「力を持たなければ、守れない」

「敵にやられる前に、やるしかない」

こうしたロジックは、強さを暴力と同一視する極めて危うい思想です。

やなせ氏は言いました。

「巨大なヒーローが怪獣を倒すとき、町が壊れる」

これは、私たちが力に依存するときに失ってしまうものが、どれほど大きいかを示す象徴的な言葉です。守るべきは、ただの勝利ではなく、人の暮らしであり、心であり、希望なのです。本当の強さとは、壊す力ではなく、支える力。踏みつける力ではなく、分かち合う力。勝つ力ではなく、誰もが共に生きていける未来を育む力なのです。



戦争をしない未来へ―誰もがヒーローになれる時代に



現代社会は、技術の進歩によって多くの課題を克服しつつありますが、同時に価値観の分断や貧富の格差、環境問題、国家間の緊張といった新たな課題にも直面しています。SDGs、サステナビリティ、エシカル消費といったキーワードは、「誰を救うのか」「誰が犠牲になっているのか」という、やなせ氏の問いと深く通じています。温暖化で水没の危機に瀕する島国。戦争で住む場所を失った難民。洋服すらまとえない子どもたち。そうした現実を前に、私たちは自問しなければなりません。

「自分たちの豊かさは、誰かの犠牲の上に成り立っていないか?」

100年後の世界を思い描いていたやなせ氏は、「やさしさこそが未来をつくる」と信じていました。それは、国家でも企業でもなく、私たち一人ひとりの選択にかかっています。 戦争をしない選択。

誰かを傷つけない言葉。

困っている人に手を差し伸べる行動。

そうした小さな選択の積み重ねこそが、平和な世界を築く礎になるのです。



“ひっくり返らない正義”のために



「何のために生まれて、何をして生きるのか」それは、単なる歌詞ではありません。それは、戦争という悲劇を二度と繰り返さないために、私たちが果たすべき責任と向き合うための問いです。私たちは今、問われています。

目の前の困っている誰かを救えるか。

怒りではなく、やさしさを手渡せるか。

過去の過ちから、学ぶことができるか。

戦争は愚かです。非生産的です。すべてを破壊し、人を不幸にし、地球を痛めつけます。そんなものに、意味も、未来も、価値もありません。必要なのは、「勝つ力」ではなく「支える力」です。そしてその力は、特別な誰かのものではありません。私たち一人ひとりが、日々の暮らしの中で育むことができるものです。戦争のない世界を、本気で望むのなら。私たちは、アンパンマンのように、自分の顔をちぎるほどのやさしさで、目の前の誰かを守ることから始めなければなりません。

誰もがヒーローになれる時代。その“正義”は、決して変わらないはずだ。そう信じるから希望が持てるし、生きている価値があると思うのです。







執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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