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当社の考え

2025/09/01

アンコンシャス・バイアスと向き合う─正義をねじ伏せるのは誰か

「それが社会というものだ」

「君は現実をわかっていない」

「理屈は正しいが、それでは回らない」

そんな言葉に、私たちはどこかで聞き覚えがあるのではないでしょうか。まっとうな意見、理屈の通った提案、倫理的に正しいとされる主張。それらが組織や社会の中であっさりと却下されてしまう場面は少なくありません。それどころか、「空気を読めない人」「面倒な人」として扱われ、居心地の悪ささえ感じさせられることがあります。そのような構造の背後にあるのが「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」です。アンコンシャス・バイアスとは、自分では気づかないままに持っている思い込みや先入観のことを指します。それは、人種、性別、年齢などの属性に対するものだけでなく、「正しさ」や「まっとうさ」に対しても働きます。たとえば、「正義を主張しても何も変わらない」「波風を立てるより、黙っていた方が楽だ」という空気が、知らず知らずのうちに社会や職場に広がっています。そしてその空気に従わない人が、「子供っぽい」「協調性がない」とレッテルを貼られてしまうのです。



無意識のうちに正義を遠ざけている私たち



アンコンシャス・バイアスの恐ろしい点は、それが悪意や敵意から生まれていないことです。多くの場合、人は“善意”で不正や不合理を黙認します。「みんながそうしている」「これが慣例だ」「前例がないから」という言葉に、自分の判断をゆだねてしまう。

結果として、正義や倫理が脇に押しやられ、場当たり的な合理性や効率性が優先されてしまうのです。しかもこの偏見は、個人の中だけでなく、集団の構造そのものに染み込んでいます。職場では「納期優先」「営業優先」「顧客第一」という名のもとに、社内のルールが無視されたり、内部告発が封じられたりする。学校では「みんなと同じであること」が重視され、個性や意見の違いが否定される。家庭でも「こうあるべき」という固定観念が、自由な生き方を縛ってしまう。つまり、アンコンシャス・バイアスは、社会全体に張り巡らされた「見えないバリア」のようなものです。それに気づかないまま過ごしている限り、どれだけ正義を叫んでも、その声は届かないままなのです。



ダイバーシティとインクルージョンの本質



では、どうすればこの構造を変えることができるのでしょうか。その答えのひとつが、「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包摂性)」という概念です。昨今、多くの企業や団体がこの言葉を掲げていますが、その多くが「性別・年齢・国籍・障がいの有無」など、属性の違いにとどまっています。もちろん、それも大切な視点です。けれども、より本質的なのは、「異なる考え方や感性を排除せず、きちんと扱うこと」なのです。つまり、たとえ自分とは違う意見に対しても、耳を傾け、真剣に受け止めようとする態度。違和感にフタをせず、向き合う勇気。少数派の声を「面倒だ」と切り捨てず、むしろそこにこそ価値があると認識する文化。インクルージョンとは、“聞く側”の態度の問題です。

「私は差別しない」と言いながら、実際には違う意見に拒絶反応を示してしまう。そのようなことが、私たちの日常の中に潜んでいるのです。組織にとって真に成熟した姿とは、異論や批判を「敵」とみなさず、「問い」として受け止める姿勢にあります。自分と違うものを歓迎し、取り込んでいこうとすること。それこそが、社会の“まっとうさ”を支えるのです。



バイアスは”他人事”ではなく自分事



私たちはつい、「バイアスを持つ人」を誰か他の誰かと考えがちです。

「あの上司は古い価値観に縛られている」

「職場の空気が時代遅れだ」

「社会が多様性を理解していない」

そうやって、バイアスを“外側”の問題として捉えてしまう。しかし、本当に問われているのは、「自分の中にもアンコンシャス・バイアスがある」という前提に立てるかどうかです。どんなにリベラルな立場にいても、どれだけ倫理的な信念を持っていても、人は無意識のうちに「空気」や「常識」に縛られています。「私は偏見など持っていない」と思った瞬間こそが、最も危うい。その油断が、自分の中に潜む偏見を見えなくしてしまうからです。ですから私たちは、常に「自分自身を疑う目」を持たなければなりません。

・この判断に、自分の思い込みは混じっていないか。

・相手の立場に立って考えてみたか。

・違う意見に対して、防御的になっていないか。

アンコンシャス・バイアスは、完全に消し去ることはできません。しかし、それに気づこうとする姿勢、検証し続ける態度、言葉にする勇気があれば、私たちはより誠実に、より公平に行動することができるのです。



正義を言いやすい社会にするために



正直な人が損をする社会。

まっとうな意見が「空気を乱す」と退けられる職場。

そのような構造を、私たちは変えていかなければなりません。

正義を主張することは、決して「対立」や「戦い」を生むことではありません。

むしろ、社会をより健やかに保つための“問い”を投げかける行為です。

見えない偏見に気づこうとするまなざし

異なる考えと共存しようとする姿勢

少数派の声を、軽んじずに受け止める態度

それらの積み重ねこそが、「正義を正義として扱える社会」をつくるのだと思います。そして最後に忘れてはならないのは、社会を変えるのは制度でも法律でもなく、私たち一人ひとりの「まなざし」と「態度」であるということです。

アンコンシャス・バイアスに対する抵抗とは、目立つことでも、声を荒げることでもありません。それは、誠実に考え、判断し、行動することです。

正義を言いやすい空気。

正直な人が生きやすい職場。

異なる意見が価値を持つ組織。

そんな社会を築いていくために、まずは今日、「自分の中の偏見」に気づこうとする一歩を踏み出してみませんか。その積み重ねこそが、健やかな未来をつくるのではないかと、私は思っていいるのです。





執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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