当社の考え
2025/08/29
その服の“後始末”を誰が担っているのか―ファストファッションと「見えない責任」
お気に入りのTシャツが、ワンシーズンでよれてしまう。数回しか袖を通していないのに、もう古びた印象になってしまう。そう感じることはないでしょうか。いつしか私たちは、服を「使い捨てる」ことに慣れてしまいました。
2022年、日本で新たに供給された衣類は約79.8万トン。そのうち実に9割近い73.1万トンが、使用後に手放されています。さらに驚くべきことに、手放された衣類の約66%(48.5万トン)が、焼却または埋め立てという形で最終処分されています。サステナブルやリサイクルの言葉が飛び交う時代であっても、現実には半分以上の衣服が「ごみ」になっているのです。しかも、そのうちの3分の1から2分の1はファストファッション由来と見られています。短いトレンドサイクルで大量生産・大量消費されるファストファッションは、その手軽さゆえに、膨大な廃棄量を生み出しているのです。
目を背けがちな「生産現場」の風景
では、これらの服はいったいどこで作られているのでしょうか。多くはカンボジア、ベトナム、バングラデシュなどの東南アジア諸国で縫製されています。これらの国々では、先進国ブランドの委託によって、膨大な量の衣類が製造され、世界中へ輸出されています。その裏では、端材(残反や裁断くず)などの産業廃棄物が大量に発生しています。実際、ネパール在住の知人からは「工場周辺は端切れだらけで、風で飛んだ布が木に絡まっている」という話を聞きました。
衣服を1枚仕立てるのに、およそ15〜30%の布が切れ端として廃棄されていると言われています。しかも、それらの多くは再利用もされず、現地で「ごみ」として焼却・埋め立て処分されているのが実情です。その中には、有害な染料や化学薬品を含む廃棄物もあり、環境や人々の健康に深刻な影響を与える可能性があります。そして、その処理にかかるコストを負担しているのは、服を買った私たちではなく、現地の行政や企業、地域の住民たちなのです。日本で販売されるTシャツが、海外の現場で生まれ、その“副産物”としてのごみを生んでいるのです。そのごみの処理は、日本ではなく、その土地に暮らす人々に委ねられているのです。私たち消費者は、安くて便利な服を買っているだけだと思っているかもしれませんが、実はその選択が、地球の別の場所にごみと負担を押しつけている構図に加担している可能性があるのです。
「責任」はどこにあるのか
ここで立ち止まり、私たちは考える必要があります。「カンボジアで作られた服を着る日本人は、その生産時に出た廃棄物の処理責任を負う必要はないのか?」
これは一見、極端な問いに思えるかもしれません。しかし、衣服がグローバルに生産され、グローバルに廃棄される時代において、この問いは避けて通れない重要な論点です。近年、企業に対してサプライチェーンの透明性やESG(環境・社会・ガバナンス)への対応が強く求められるようになりました。児童労働や低賃金といった人権問題とともに、製造時の環境負荷や廃棄物処理も評価対象となっています。しかし、企業だけに責任を押し付けてよいのでしょうか。私たち消費者自身の選択もまた、この構造に深く関わっているのです。
私たちにできる「責任ある行動」
では、私たちが個人としてできることは何でしょうか。「日本人がアジアのごみ処理まで責任を取るべきだ」と声高に叫ぶのは、現実的でも実践的でもないでしょう。すべての問題を一人で背負う必要はありませんが、「できる範囲での行動」は、確実に社会を変える一歩になります。以下は、その具体的な例です。
衝動買いを控え、長く着られる服を選ぶこと
中古衣料市場やリユースサービスを活用すること
不要になった服をリサイクルや回収ルートへ回すこと
服を捨てるときに、その“先”を想像してみること
燃やされる端材、埋め立てられる染料、川へ流れ出す汚染物質。それは、遠い国の話ではありません。私たちが手に取ったその一着が、その背景を抱えているのです。
小さな想像力が、大きな変化を生む
ファストファッションは便利です。手軽で安く、私たちの暮らしに彩りを加えてくれます。しかしその背後には、見えにくい責任と、誰かの犠牲が存在していることも事実です。ファストファッションは買ってはいけないと言っているのではありません。服を買う前にほんの少しだけ、立ち止まって想像してみることが大切ではないかと問うているのです。
・この服は、誰がどんな環境で作ったのか?
・その生地の切れ端は、どこに行ったのか?
・この服を捨てた後、それはどうなるのか?
そんな「小さな問いかけ」が、消費行動を変え、供給のあり方を変え、やがて未来の衣服産業そのものを変える力になるかもしれません。
ファッションの“その先”を想像するということ
ちょうど2年前に映画『ファッション・リイマジン』を見ました。そこには、「ファッションを楽しみながら持続可能な未来を創る」という相容れない2つの考えを両立させようとするエイミーの信念が描かれていました。サステナブル・ファッションのブランドの立ち上げのために、理想の素材を求め、紡績工場を探し回り、羊毛工場の排水処理にまで目を向け、オーストリア、ウルグアイ、ペルーと駆け回り、奮闘するエイミーの姿でした。
衣服は生活の必需品であり、同時に自己表現の手段でもあります。だからこそ、選ぶ行為にこそ「価値」があり、その選択には社会への影響が含まれているのです。私たちは、ただ服を買っているのではありません。その背後にある水、エネルギー、労働、そして環境コストに“賛同”しているとも言えます。便利さと豊かさの恩恵を受ける一方で、その背後にある課題にも意識を向ける。そのバランスの中に、「責任ある消費者」としての成熟があるのではないでしょうか。
ファストファッションの“次の時代”をつくるのは、企業だけではありません。私たち一人ひとりの想像力と選択こそが、未来の衣服と地球環境のあり方を決めていくのです。