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当社の考え

2025/08/08

「買いたくなるサステナブル」はどう生まれるのか

サステナブルな商品が次々と市場に投入される中で、売れるものと売れないものの差が徐々に明らかになってきています。どちらも環境に配慮し、再生素材を使用し、企業は社会貢献の理念を掲げています。けれど、消費者の手に取られるものは限られています。そこには、「買いたくなるサステナブル」が持つ、ある“設計思想”の違いがあるようです。単に「正しいこと」をしているだけでは、人の心は動きません。人の心が動くのは、正しさの先にある感情や共感に触れたときです。



「好き」「話したい」──選ばれるのは、心が動いた商品



サステナブルな商品は、それがどれだけ環境に良いか、社会に貢献しているかという“事実”だけで評価されがちです。しかし、購買行動の多くは感情によって動かされています。「なんとなく好き」「心地よい」「誰かに話したくなる」といった、数字では測れない心理的価値が、最終的な選択を決めています。ここにこそ、サステナブル商品の真の分かれ目があります。たとえば、「このバッグは再生ポリエステルでできています」という説明は、環境的には素晴らしいですが、それだけでは印象に残りにくいものです。しかし、「このバッグは、地元の海岸で回収されたペットボトルから作られました」と言われるとどうでしょうか。そこには、手触りと共に、風景や人の営みが浮かんできます。目の前の商品と社会課題との接点が、ぐっと身近になってきます。つまり、買うという行為が「意味ある選択」に変わるのです。人は、意味に惹かれる生き物です。環境に配慮しているから買うのではなく、自分の感情にフィットするから手に取るのです。



モノの向こうに人を感じる「物語の設計」



このような体験を設計するには、「商品」と「物語」の一体化が欠かせません。商品の背景にある素材の由来、製造過程、誰がどんな思いで手がけたのか。それを一貫したメッセージとして伝えることで、消費者とのあいだに“共感の回路”が生まれます。人は、モノの向こう側にある「人」や「風景」、「想い」に心を動かされます。それを丁寧に届けることで、消費者の中に「自分がその物語の一部になれる」という参加意識が芽生えてきます。これこそが、“買いたくなるサステナブル”の根幹だと思います。



エコを押し出さない“さりげなさ”が信頼になる



また、商品そのものの魅力も決して軽視してはなりません。いくら背景が素晴らしくても、デザインが悪ければ、使いにくければ、価格が高ければ、それはやはり選ばれません。その前に品質です。従来品に勝るとも劣らない品質は、その前提条件と言えます。重要なのは、「環境に良いことをしているから、このくらいは我慢してほしい」「再生しているんだから、コストはかかって当たり前」という発想から抜け出すことだと思います。サステナブルな商品こそ、他の商品と並べられても遜色ない、あるいはそれ以上の機能性や審美性を備えていなければなりません。その上で、「実はこれ、再生素材なんですよ」とそっと添える。この“さりげなさ”が、むしろ信頼や好感を生むのです。「売れるサステナブル商品」は、エコを前面に押し出すのではなく、当たり前の品質、価格の中にありながらも、自然と環境性が溶け込んでいます。



「共感できる体験」がサステナブルを動かす



さらに、「自分ごと化」の視点も極めて重要です。人は、自分の身近なものにしか心を動かされません。だからこそ、地域の制服をリサイクルしたバッグや、特定の業種の作業着を再利用した商品には力があると思います。それは、ただのモノではなく、「あの場所」「あの職業」「あの出来事」とつながっています。自分の生活と地続きのモノであることで、サステナブルは“遠くの理想”から“今ここでの選択”に変わっていくのです。その感覚が、消費者にとって「買いたくなる理由」になります。また、商品そのものだけでなく、購入体験そのものも「感情設計」の対象になります。どこで、どのようにその商品に出会うか。どんな情報が伝えられるか。店頭でのストーリー展示、購入者特典としての「再生工程の証明書」、SNS投稿で共有できる背景説明カード。こうした「語れる体験」を伴う商品は、単なる所有物ではなく、「誰かに話したくなるプロダクト」として流通していきます。商品が語られ、共感され、他者へと広がっていく。この“二次的な拡散力”こそ、買いたくなる力の源泉のひとつでしょう。



サステナブルは、企業にとっての当たり前の事



一方で、企業側にも意識の転換が求められます。サステナブルな取り組みは、社会的な責任であると同時に、ブランド価値を高める重要な戦略でもあります。ただしそれは、「私たちはこんなに頑張っています」という自己主張であってはなりません。むしろ、「あなたの選択が、こんな未来につながっています」と、消費者の側にスポットライトを当てる視点が求められます。企業は主語になるのではなく、裏方として物語を設計し、伝える存在でなければなりません。そうして初めて、サステナブルは“企業の美談”ではなく、“社会と個人の共有体験”として成立していくのです。



共感と真摯な対応



今、サステナブルな商品が多くの選択肢として並ぶなかで、「正しいかどうか」ではなく、「共感できるかどうか」が問われています。「心地よい」「使いたい」「話したい」「持っていたい」──こうした感情を引き出せるかどうか。それが、これからのサステナブル商品の成否を分けるのでしょう。そしてそれは、特別な資源や大資本がなくても、丁寧な設計と誠実なコミュニケーションによって実現できるものであると思います。「正しさを伝える」から、「心に触れる体験をつくる」へ。そのシフトが、サステナブルを“選ばれる価値”へと押し上げていくものでしょう。今まさに、その分岐点に私たちは立っていると思います。





執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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