当社の考え
2025/08/08
衣服リサイクルの限界にどう取り組むか―利益を生むための現実策
先般お話しましたとおり、衣服のリサイクルが進まない理由は、産廃業界の収益構造と衣服リサイクルの構造が抱える問題があり、「理想論では進められない」難題です。こんなにハードルが高いのに、私たちは、なぜ取り組む価値があるのか。それは一言でいえば、衣服は私たちの生活に不可欠であり、環境負荷が大きいからです。そして消費者や企業の意識も確実に変わりつつあり、「サステナブルであること」がブランド価値に直結する時代になっているからです。しかし理想論だけでは事業は続きません。社会のため、環境のためだけでなく、企業が利益を確保して初めて、継続的に資源循環を担うことができます。そのために、衣服リサイクルを事業として成り立たせるには、どのように取り組めばよいでしょうか。
立ちはだかる3つのハードル
まずは、衣服のリサイクルを進める上で、立ちはだかる3つのハードルを考えてみます。
(1)衣服の構造はリサイクル向きではない
衣服は「再生しづらい製品」であるという現実があります。たとえば、1着の服には複数種類の素材(綿・ポリエステル・ナイロンなど)が使われており、異素材の混紡や裏地、装飾品(ボタン・ファスナー等)などが複雑に組み合わさっています。この素材の混在こそが、機械的な分別・再加工を困難にしています。ペットボトルのような単一素材とは違い、衣服をリサイクルするには手作業での選別や分解が必要になる場合が多く、人手と時間がかかります。さらに、衣服は肌に直接触れるものですから、洗濯や摩耗によって素材が劣化しやすく、再資源化に適した品質を保ちにくいという性質もあります。つまり、「回収すれば再利用できる」と簡単に言える製品ではないのです。
(2)再生しても採算が合わない構造的コスト
もうひとつの大きな問題は、衣服の価格構造にあります。一般的な衣服では、生地そのものの原価は製品価格の5%〜10%程度に過ぎず、縫製や流通、販売、ブランド価値に大きなコストがかかっています。つまり、衣服を再生して生地に戻したとしても、得られる価値はごくわずかです。たとえば、1万円のシャツを解体して再生したフェルトの価値は、数十円〜数百円程度にしかなりません。再生コストの方が高くつくことも珍しくありません。そのため、「環境にいいから」「循環だから」という理由だけで再生素材を選んでもらうのは、現実として難しいのです。サステナブル素材が、機能性・価格・デザイン面で既存の製品と競合できなければ、顧客の選択肢には入りません。
(3) リサイクル品に対する市場の誤解と乏しい理解
衣服リサイクルには、「古着の寄せ集め」「品質が劣る」といった先入観が根強くあります。再生フェルトなどに加工された製品であっても、「エコだけど、かっこよくない」「高いわりに効果が見えにくい」という印象を与えると、市場から評価されにくくなります。特に、建築やインテリア業界のようにデザイン性や施工性が重視される領域では、環境性だけでは採用には至りません。環境価値があっても、「使いにくい」「見た目が悪い」「高い」と思われてしまえば、購入されないのです。だからこそ、「再生素材であること」を表に出すよりも、「機能的に優れていること」「使いやすいこと」「価格に見合うこと」をまず訴求しなければならないのです。
では、どう取り組むべきか――利益を生む現実策
このような限界が明らかであるからこそ、私たちは真正面から現実に向き合い、「儲かる循環」をつくっていかなければなりません。そのために、以下の4つの具体的戦略が重要です。
①量を確保する「面」での回収スキーム
量がなければ、選別・再加工のコストを回収することができません。単発ではなく、継続的かつ広域的に集める“面”でのスキームが不可欠です。
・大手企業の制服を定期的に一括回収する仕組みを構築する
・学校や自治体と連携し、卒業時の制服回収を制度化する
・小売店と協定し、衣料品購入時に不要衣服を引き取る施策を導入する
こうした施策により、収集コストを下げ、処理効率を高めることが可能となります。
②高付加価値化により「安く売らない」出口戦略をとる
回収した衣服を単なるウエスや断熱材にするのではなく、新たな製品として生まれ変わらせる「アップサイクル戦略」が重要です。
・再生フェルトを用いたデザイン什器や吸音パネルの製品化
・機能性を可視化し、建材としての性能エビデンスを提示
・サステナブル雑貨やオフィス備品としてブランド展開
「社会課題を解決する素材」としての価値を示すことが、価格競争から抜け出す鍵となります。
③他業種との連携でビジネスモデルを広げる
リサイクル単体では利益を出しにくい場合でも、他業種と連携することでプロジェクト全体としての採算性を高めることができます。
・建築事務所との協業による採用事例づくり
・福祉施設との連携による障がい者就労支援
・地域企業・自治体との「地産地消型循環モデル」開発
これにより、補助金の活用、広報効果、企業イメージ向上などの副次的利益も得られます。
④ストーリーと価値を「正しく伝える」マーケティング
「なぜこの製品を選ぶべきか」を、環境だけでなく経済的合理性・感性面の魅力を含めて、わかりやすく伝えることが必要です。
・ブランドサイトやSNSで製品の背景・ストーリーを発信
・BtoB向けには機能性や導入事例を動画・PDFで提供
・認証・エビデンスを取得して信頼性を強化
消費者や企業に「理解される」「信頼される」ことが、結果として継続的な取引につながります。
「再生だから安い」は幻想、品質・デザイン・施工・価格、すべてで競合品と勝負する
再生繊維であろうと、木材でもガラスでも金属でも、あらゆる建材・内装材・雑貨と同じ土俵で比べられるのが、サステナブル市場の今です。サステナブルな素材だからといって、品質が劣れば選ばれません。施工が難しければ敬遠されます。価格が高ければ、他の商品に勝てません。だからこそ必要なのは、「従来品に劣らない」ではなく、「当たり前に選ばれる水準」を超えていくことです。例えば、リサイクル素材でありながら、断熱性や吸音性に優れる。加工がしやすく、施工時間を短縮できる。デザインに優れ、空間の魅力を高める。価格も適正で、むしろ導入コストを抑えられる。こうした「明確な選ばれる理由」を積み重ねることが、結果として再生素材の採用を当たり前の選択肢に変えていきます。
衣服リサイクルや再生素材に関わるビジネスでは、つい「廃棄物から作るのだから、安価で提供するべきだ」と考えてしまいがちです。しかし、実際には素材の選別、異物の除去、加工の手間など、再生には高度な技術と多くの工程が必要です。だからこそ、単に「安い代替品」として売るのではなく、高付加価値品としてプレミアム市場で評価される道を選ぶべきです。たとえば、
・建築資材として、エビデンスに基づいた吸音性・断熱性を明示し、設計士・施工業者に訴求する
・企業の制服をアップサイクルし、企業のロビーや社内空間に再生素材家具として還元する
・卒業生の制服を記念品や学校用家具として再利用し、地域コミュニティとの接点にする
これらは「再利用」ではなく、「再創造」であり、価値を創り出す行為そのものです。
サステナブル市場は競争市場―「選ばれ続ける」覚悟が必要
かつては、エコであるだけで評価された時代がありました。しかし今は、サステナブル市場そのものが高度化し、競争のステージに立っています。
・環境性能の「見える化」
・施工性・加工性の実証データ
・空間との親和性を意識した製品設計
・価格と調達性の安定確保
これらが揃って初めて、事業として継続可能な「選ばれる素材」になります。つまり、「環境に良いから仕方なく選ばれる」素材ではなく、「環境に良くて、しかも優れているから当然選ばれる」素材でなければ、競争には勝てません。
「売れるサステナブル」は、次の利益を生む土壌になる
サステナブルであることは、もはや理念ではなく、戦略です。選ばれる商品をつくり、売れる仕組みをつくり、利益を出す。その利益をさらに新しい技術開発や市場拡大に回すことで、再生ビジネスは本当の意味で循環します。そしてそれは、事業者にとって新たなスケールを獲得するチャンスにもなります。
・地域回収→地域再生→地域消費のモデルで行政との連携を得る
・ESG投資の文脈で、金融機関からの資金調達機会を得る
・大手ブランドとの協業を通じて、ブランド価値を引き上げる
このように「選ばれる再生素材」を確立できれば、従来の延長線ではない、新たな市場や規模の可能性が開けるのです。
循環を「持続可能な利益構造」に変える挑戦
衣服リサイクルには、確かに多くの限界があります。しかし、量の確保・付加価値化・異業種連携・発信力の強化という戦略を地道に実行すれば、その限界を乗り越え、持続可能な利益構造へと転換する道は確実に存在します。環境のため、社会のために取り組むことは大切です。しかし、それだけではビジネスにはなりません。だからこそ、儲かる構造を「つくる」努力こそが、私たちの挑戦の本質であり、未来を変える唯一の道なのです。