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当社の考え

2025/07/29

TCFDとは何か|気候変動時代の経営に不可欠な「開示の原則」

近年、企業活動において「TCFDに準拠した開示」や「TCFD対応が急務」といった言葉を耳にすることが増えています。特に、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する開示が企業価値の一部として評価されるようになって以降、TCFDは世界的な共通語となりつつあります。では、そもそもTCFDとは何でしょうか。

それは単なる報告の枠組みにとどまらず、気候変動がもたらすリスクと機会を企業経営の中核で捉えなおすための国際的な指針です。今回は、その成り立ち、構成、導入の目的、そして日本における動向を含めて、TCFDの本質に迫っていきたいと思います。



TCFDとは、「Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)」の略称です。2015年、G20の要請を受けて、金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)が設立した専門組織であり、議長はマイケル・ブルームバーグが務めました。

このタスクフォースの目的は、気候変動が企業の財務状況や事業継続に与える影響を、投資家や金融機関が適切に把握できるようにすることにあります。特に、温室効果ガスの排出規制、再生可能エネルギーへの移行、異常気象による事業中断など、気候関連のリスクは企業にとってもはや「無視できない財務リスク」であるとの認識が、国際的に共有されてきました。

TCFDは2017年6月に最終報告書を発表し、その中で「気候関連情報の開示は、企業の長期的な価値創造に不可欠である」と提言しました。



TCFDが求める情報開示の4つの柱



TCFDが特徴的なのは、単なる環境情報やCO₂排出量の開示を求めるのではなく、「経営戦略として気候変動をどうとらえ、どう対応しているか」を企業に問う点にあります。 そのため、開示すべき情報は次の4つのカテゴリーに整理されています。

1.ガバナンス(Governance)

気候関連リスク・機会への対応について、取締役会や経営陣がどのように関与しているか。意思決定プロセスに気候課題がどう組み込まれているかを明らかにする。

2.戦略(Strategy)

短期・中期・長期の時間軸で、気候変動が事業や財務にどのような影響を与えるか。さらに、1.5℃または2℃シナリオを想定したシナリオ分析を行い、気候リスクへの対応力を示すことが推奨されている。

3.リスク管理(Risk Management)

気候変動リスクを他の事業リスクとどのように統合的に把握・評価・管理しているか。リスクの特定、優先順位付け、緩和措置の方針を開示する。

4.指標と目標(Metrics and Targets)

温室効果ガス排出量(スコープ1・2・3)の算定と、削減目標の設定。進捗管理やKPI(主要業績評価指標)による定量的把握が求められる。


これらの構成は、財務報告の整合性を保ちながら、気候課題を経営の中枢で議論すべきものとして捉えるフレームワークです。



世界で進むTCFD対応とその理由



TCFDは世界的に受け入れられており、2023年時点で4,000社以上が支持・賛同を表明しています。金融機関や上場企業を中心に、各国でTCFD開示をベースにしたガイドラインや法制度が整備されつつあります。その理由は大きく三つあります。

(1) 投資家との対話が進む

TCFDに基づいた開示は、ESG投資家との建設的な対話の基盤となる。将来の気候リスクを定量化・戦略化して示すことで、長期投資の判断材料となりうる。

(2) リスク管理の高度化に貢献する

異常気象、炭素税導入、再エネ価格変動など、既にビジネスに影響を与える気候リスクに対し、先手を打って対応策を講じることが可能になる。

(3) 国際競争力の源泉となる

グローバル市場ではTCFD対応が取引条件や資金調達条件になるケースが増えている。特に日本企業はサプライチェーンの中で対応を求められる立場にあり、TCFDへの適応は競争力そのものとなる。



日本におけるTCFDの動向と制度化



日本政府はTCFDの早期導入に積極的です。2021年には金融庁がコーポレートガバナンス・コード改訂を通じて、上場企業にTCFDまたは同等の枠組みに基づく開示を求め、2024年度からは有価証券報告書への統合が始まっています。また、経産省が主導する「GXリーグ」や、金融機関・企業・自治体で構成される「TCFDコンソーシアム」も設立され、民間主導での知見共有・実務指針作成が進められています。加えて、国際的には2023年に創設されたISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、TCFDをベースとするIFRS S2(気候関連開示基準)を発表。今後は「TCFD準拠」は国際会計基準の一部となる見通しです。



価値創造の道具としてのTCFD



TCFDは単なる開示義務ではありません。それは、気候変動という世界的課題に対して、企業が自らの経営をどう適応させ、どう持続可能な成長へとつなげていくかを示す羅針盤です。すなわちTCFDとは、「説明責任」の道具ではなく、「価値創造」の道具です。企業にとっては厳しい要求であるかもしれないが、未来に向けた経営を考えるうえで、TCFDは避けて通れない構造変化のひとつなのです。





執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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