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当社の考え

2025/07/14

消費と成長の幻想|リニアエコノミーという限界構造

「掘って、作って、使って、捨てる」。これは、私たちの社会を長らく支えてきた経済の基本構造です。いわゆる「リニアエコノミー(直線型経済)」と呼ばれるこのモデルは、産業革命以降、特に20世紀の高度経済成長期において、圧倒的なスピードで人々の暮らしを変えてきました。 便利で、豊かで、効率的。そう信じられてきたこの経済モデルは、いまや私たち自身の未来を危うくする構造的な限界を露呈しつつあります。環境負荷、資源の枯渇、気候変動、そして社会的不平等――それらはすべて、リニアエコノミーの副産物とも言えるものです。

では、そもそも「リニアエコノミー」とは何だったのでしょうか。なぜ私たちはそれに依存してきたのでしょうか。そして、なぜ今、その見直しが求められているのでしょうか。本稿では、この「リニアエコノミー」という構造に改めて光をあて、私たちが直面している課題の根源を見つめ直してみたいと思います。



掘って、作って、捨てる──リニアの基本構造



リニアエコノミーとは、資源を採掘(Extract)し、それを使って製品を製造(Produce)し、それを消費者が使用(Consume)したのちに廃棄(Dispose)するという、一方向の流れを基本とする経済モデルです。

このモデルは、工業化の進展とともに社会に広まりました。安価で大量の資源が利用可能であった時代においては、この仕組みは非常に効率的でした。生産性が飛躍的に向上し、所得が増え、消費が拡大し、それがさらに生産を刺激するという、経済成長の「黄金ループ」が成立していたのです。

リニアエコノミーは、言うなれば「拡大再生産」の思想の上に成り立っています。作っては売り、売っては捨てる。製品の寿命が短ければ短いほど、経済は回転しやすくなり、企業の利益も拡大します。大量生産・大量消費・大量廃棄の構図は、こうして市場の競争原理とも結びつきながら、やがて生活者の価値観そのものにまで浸透していきました。



成長と引き換えに、私たちは何を失ったのか




リニアエコノミーは、たしかに短期的な成長を可能にしました。しかしその裏で、私たちはあまりに多くのものを代償として差し出してきました。

第一に、資源の浪費です。現在の地球上では、人類が1年間に消費する資源のうち、再生可能な形で地球が供給できる量をすでに超えています。「アース・オーバーシュート・デー」という言葉をご存じの方も多いかもしれません。これは「その年の地球の生産可能な資源を人類が使い切る日」を示したもので、年々その日付が早まっているのが現実です。

第二に、廃棄物の問題です。家庭から出るごみはもちろんのこと、製造業や流通業が排出する産業廃棄物は膨大な量にのぼり、焼却・埋め立てといった手段では到底処理しきれない時代に突入しています。特にプラスチックごみや電子廃棄物(e-waste)は、環境に深刻なダメージを与え、マイクロプラスチックや有害物質によって生態系を破壊しています。

第三に、気候変動への加担です。リニア型経済は、化石燃料に強く依存しています。製造・輸送・廃棄のあらゆるプロセスでエネルギーを消費し、膨大な量の温室効果ガスを排出してきました。その結果が、現在の異常気象、海面上昇、そして世界各地で顕在化する「気候危機」なのです。




構造に潜む「設計された無駄」



リニアエコノミーの問題は、単に資源の使い方にあるのではありません。もっと深いところに、「無駄を前提とした設計思想」があるのです。

たとえば、スマートフォンは2年で買い替えることを前提に設計されています。部品の交換が難しく、バッテリーの寿命も短い。衣料品も同様です。ファストファッションと呼ばれる業界では、流行に合わせて商品が次々に入れ替わり、わずか数回の着用で捨てられるような品質の衣服が大量に出回っています。

これは単なる「使い捨て」ではなく、企業が利益を最大化するために「使い捨てられること」を前提に商品を設計しているということです。この構造が、結果として地球の資源を加速度的に消費し、環境に負荷をかけ、生活者の生活リズムさえも消耗型にしているのです。




なぜリニアエコノミーは手放されにくいのか



リニアエコノミーが抱えるこれらの問題は、すでに多くの人に共有されています。しかし、それでもなお、この構造は世界の経済の主流として残り続けています。その理由は、いくつかの根深い要因にあります。

一つは、「既得権益」の存在です。リニア型経済に依存した産業構造が既に完成しており、それを支えるインフラ、法律、教育、そして市場の仕組みそのものが「直線的なロジック」に最適化されています。変革には時間もコストもかかるため、抜本的なシステム変更には高いハードルがあるのです。

もう一つは、「生活者側の認識のずれ」です。便利さや安さ、スピードを最優先にした価値観が根強く、「使い捨てることが悪い」と直感的に思えないほど、私たちの行動がリニア型経済に最適化されてしまっているのです。つまり、リニアエコノミーとは、構造の問題であると同時に、文化や価値観の問題でもあるのです。




問われているのは「豊かさの定義」



では、私たちはこのリニアエコノミーをどう捉え直せば良いのでしょうか。おそらく、いちばん本質的な問いは、「私たちは、何を豊かさと定義するのか」ということです。 これまでの豊かさは、所有するモノの数や価格で測られてきました。しかし、気候変動や環境問題が突きつける現実は、「今ある価値を維持すること」が未来の世代にとっての豊かさになるという、新たな価値基準を求めています。

モノを長く使うこと、地域の中で資源を循環させること、廃棄ではなく再生という視点を持つこと。これらはすべて、リニア型からの離脱を意味します。つまり、リニアエコノミーは、もはや「便利な仕組み」ではなく、未来にとっての「負債」になりつつあるのです。




執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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