当社の考え
2025/07/14
リユースエコノミーが問いかけるもの ──「使い回す経済」の限界
近年、「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」という言葉が広まりつつあります。「限りある資源を無駄なく使い、廃棄物を出さずに社会を回す」。その理念に賛同し、多くの企業や自治体、市民がさまざまなアクションを始めています。しかし、この流れの中で、ある種の“誤解”もまた定着しつつあるように思います。リユースエコノミー、つまり「使い捨てにしない」という発想の経済活動が、あたかもサーキュラーエコノミーそのものであるかのように語られる場面が増えてきているのです。
確かにリユースは、消費と廃棄の一方向的な流れに小さなブレーキをかける効果があります。しかし、構造的にはあくまで「延命措置」であり、「循環」ではありません。どれだけ丁寧に使い回そうとも、最終的にその製品や素材は寿命を迎え、ゴミになります。資源の出口は閉じられておらず、ただ時間が稼がれているにすぎません。つまり、リニアエコノミー(直線型経済)の範疇に過ぎないのです。この現実を直視することこそが、私たちが本当の意味で「循環型社会」へと移行するための第一歩ではないでしょうか。
リユースエコノミーとは──応急処置としての「延命システム」
リユースエコノミーとは、文字通り「再使用経済」を意味します。一度使われたモノを、廃棄せずにもう一度使い回す。たとえば、誰かが手放した服を古着として別の誰かが着る。まだ使える衣類や家具をリサイクルショップやフリマアプリで再販売する。壊れた電化製品を修理して使い続ける。使わなくなった家具をリメイクして別の用途に転用する。古着をウエスにする──こうした行為の総称がリユースであり、それを産業構造として組み込もうというのがリユースエコノミーです。
この考え方は、サステナブルな社会への移行を支える“入り口”としては有効です。使えるものをすぐ捨てない、モノの寿命を意識する、消費のスピードを緩める。こうした文化が人々の中に根づくことは、環境保護の観点からも重要でしょう。しかし一方で、リユースエコノミーには決定的な限界があります。それは、そもそもこの経済の仕組みが、「廃棄ありきの設計思想」を前提にしているという点です。
古着や制服の行方──再利用という名の「段階的廃棄(ダウンサイクル)」
わかりやすい例が、衣服の再利用です。日本では、年間約80万トンの衣類が供給され、そのうちの約90%が使用後に手放されています。再販可能な一部の古着はフリーマーケットや海外輸出に回されますが、デザインや素材の劣化、衛生基準の問題から、多くは「椅子などのファブリック」になり、「クッション材」、「緩衝材」、「ウエス(雑巾)」、そして「堆肥化・バイオガス」に。低付加価値な二次製品に加工(ダウンサイクル)されます。この段階において、たしかに「もう一度使われている」と言うことはできます。しかしその再利用はあくまで“1段階下の使用”であり、使用価値は減衰していきます。最終的には、どのような形であっても焼却や埋立処分に至るのが現実です。
つまり、リユースとは「廃棄の前段階」であり、「循環」ではありません。出口が完全に閉じられたシステムとは言えないのです。この点は、制服のような特殊な衣服で特に顕著です。学校や企業、病院などで使用される制服は、着古された後に個人情報やブランド価値の保護の観点からもリユースされにくく、結果的に物理的な再利用ではなく、素材として“なんとかもう一度使う”形が取られます。
Rebornfiber®の立ち位置──リユースエコノミーの範疇にある現実
このような衣類の出口として、私たちの開発するRebornfiber®も存在しています。Rebornfiber®は、役目を終えた衣類を粉砕・圧縮し、吸音材や断熱材など、別用途の素材として生まれ変わらせる再生繊維フェルトです。
どんな繊維でも受け入れられること、またコストを抑えて汎用的な建材や雑貨として再設計できる点に価値があると考え、日々研究開発を重ねています。しかし、このRebornfiber®も現段階では「最初から循環を前提に設計された素材」ではありません。その50%は再資源化可能なものの、そのほとんどが役目を終えた後、現実的には“ここが出口”になってしまうということです。つまり、いかに意義深くても、Rebornfiber®はリユースエコノミーの範疇にあるものであり、サーキュラーエコノミーにおける「設計段階からの資源循環」には至っていません。
再利用できる衣服を増やすという意味では重要な存在です。しかし、それは「既存の衣服の受け皿」であり、「未来の衣服の在り方そのものを再設計したもの」ではないという事実は、謙虚に認めなければなりません。
リユースが社会の構造変革を止める
ここで重要なのは、リユースが“環境に優しい”というイメージが独り歩きし、本質的な変革の妨げになってしまう危険性です。現に、「もう一度使えばいい」「捨てなければOK」といった発想は、リニアエコノミーの延命にすぎず、資源設計の根幹を問い直す動きを鈍らせている面があります。これを「サステナブルの甘い罠」とでも呼ぶべきかもしれません。
目の前の“善意”が、長期的には社会全体の「構造的転換」を遠ざける。そのような自己矛盾が、リユースエコノミーには含まれているのです。本来ならば、製品や素材は最初から「何度でも使い回せる」「修理・解体しやすい」「生分解性を持つ」といった設計思想で生まれるべきです。つまり、出口をどう整えるかではなく、入り口から「捨てなくて済む構造」を設計する。これがサーキュラーエコノミーの本質であり、リユースエコノミーにはできない視座なのです。
リユースの限界を認めることが、循環の出発点になる
では、リユースは無意味なのかと言えば、決してそうではありません。むしろ、リユースの限界を正しく理解することが、次のフェーズ──サーキュラーエコノミーへの移行を真に加速させるのです。
リユースは重要です。しかしそれは「終点」ではなく「中継点」として捉え直されるべきです。その中でRebornfiber®のような素材も、「循環の行き止まり」ではなく「次なる循環設計を生み出すための社会的実験」として捉えることができます。
サーキュラーエコノミーの実現をミッションとしている当社としては、Rebornfiber®の循環、100%の再資源化が目的です。「Reborn」という言葉は「再生」を意味します。しかし、その再生が「廃棄物の処理」から始まるのか、「循環の出発点」として位置づけられるのかで、その意味はまったく変わります。Rebornfiber®が目指すべき未来は、「廃棄物の有効利用」にとどまるのではなく、「最初から循環の要となる素材」として位置づけられること。再資源化を前提に生産されるという取り組みと仕組みです。
サーキュラーエコノミーにおける真の価値創出は、まさにそこにあるのです。そしてこの挑戦は、単に環境のためだけでなく、私たち自身の暮らしの豊かさ、社会の健全性、経済の持続可能性につながっています。「善意ある延命」から「構造を変える創造」へ。私たちは今、その転換点に立たされています。
私たちが本当に目指すべきは、モノや素材が「廃棄されない」「価値を失わない」ことを前提に、最初から設計されている社会です。たとえば、建材が建材へと再生し続ける、衣服が衣服へと戻るだけでなく、あらゆる素材が何度も“そのままの姿で社会を巡る”という仕組みです。そこにこそ、サーキュラーエコノミーの思想が宿るのです。