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当社の考え

2025/07/02

衣服リサイクルが進まない本当の理由|価値が生まれにくい「布」の現実と構造の壁

「衣服のリサイクル」や「サステナブルファッション」という言葉が当たり前に語られる時代になりました。私たちは、着なくなった服をゴミではなく資源として活かすべきだと知っていますし、企業も自治体も「循環型社会」を掲げています。それでも現実には、回収された衣服の殆どは焼却か埋め立てに回されています。何故でしょうか。

先般お話ししたように、産廃業界の収益構造の問題もその一因ですが、実際にはそれだけではありません。衣服リサイクルが進まない本質的な理由は、衣服の「構造」「コスト」「市場性」という、逃れがたい3つの壁(ハードル)にあります。今回は、それらのハードルを掘り下げてみたいと思います。



服は「布の塊」ではなく複雑な工業製品である



まず第一のハードルは、衣服という製品の「構造の複雑さ」です。 一見、Tシャツやスーツは「布でできた簡単なもの」に思えるかもしれませんが、実際には多種多様な素材と部品が組み合わさった小さな工業製品です。代表的なものを挙げると、

●異素材の混紡生地(綿・ポリエステル・ウールの混在)

●本体生地と異なる処理条件(溶解温度)がある縫製糸

●ボタン、ファスナー、ホック、芯地、肩パッドなどの副資材

●接着剤や裏地など

これらが一着の衣服に複雑に縫い込まれていて、リサイクルの現場では「厄介な“異物”」となります。マテリアルリサイクル(繊維を再資源化する方法)を行うためには、素材ごとに分別が必要ですが、これを人手で解体するのは膨大な時間とコストがかかります。機械処理にしても、異物混入で機械トラブルが起きやすく、効率は落ちてしまいます。

「混紡繊維の再資源化は難しいが、『ポリエステル100%』や『綿100%』であったらリサイクルは簡単だ」と思われがちですが、実際には縫製糸や裏地が異素材だったり、装飾品が混入したりしている場合、リサイクル率は極端に落ちてしまいます。この「構造の壁」が、衣服リサイクルの最初の大きな障害です。



再生しても見合わない「コストの壁」




次に、2つ目は「コスト」です。衣服という商品の価値の大部分は、「布そのもの」ではなく、デザイン・縫製・仕上げ・物流・販売マージン・ブランド価値で成り立っています。 一般的に、衣服の原価のうち「生地」にかかるコストは、おおむね5〜10%程度に過ぎないと言われています。つまり、原価1万円の服であれば、生地の原材料費は500〜1,000円程度。残りのコストは以下のような項目で構成されています。

●デザインや型紙設計

●ボタンやファスナーなどの副資材

●縫製作業や仕上げ工程(アイロン、検品など)

●輸送費、保管費、販売手数料

●ブランドマージンや広告費

このように、衣服とは「布そのもの」よりも、人の手や流通、ブランディングなどの経費が多大にかかっており、それらによって価値も形成される商品なのです。したがって、使い終わった衣服を回収しても、その中に残っている「再利用可能な価値」は、非常に限定的です。布地だけ取り出して再利用しようとした場合、回収・選別・加工にかかる手間とコストが、再生した布地の経済価値を大きく上回ってしまいます。新品の生地を仕入れたほうが安くて早い、というのが現実です。この「割に合わない」という経済構造が、再生布地をビジネスとして成立しにくくしているのです。




再生品が売れない「市場性の壁」



さらに追い討ちをかけるのが、3つ目の「市場性の壁」です。 仮に構造のハードルを超えて、コストをかけてでも再生布地を作れたとしても、問題は「売れない」ことです。再生繊維の主な用途は以下の通りです。

●雑巾やウエスなどの工業用清掃用品

●断熱材・吸音材などの建材内部の中間材

●フェルト状のマットなどの簡易資材

これらの製品は単価が非常に安いうえに、代替品が新品繊維で対応しても十分に安価に作れます。消費者も企業も、必ずしも再生品を選ぶインセンティブがないため、需要は限られます。需要が少なく単価も安い。結果として、せっかくコストをかけて再資源化しても、製品として流通するまでに利益を生み出すのは至難の業です。「売れないから作らない、作らないから量産効果が生まれない」という悪循環に陥りやすいのです。




それでもなお挑戦すべき理由



こうして振り返ってみると、衣服のリサイクルが進まない理由は、決して技術の未熟さや消費者の無関心だけにあるわけではありません。その背景には、より根深い構造的な課題があります。すなわち、素材構成が複雑であること、使用後の残存価値が低いこと、そして回収・再生しても利益が出にくいという市場の現実。この三つの壁が立ちはだかっているのです。だからこそ、衣服のリサイクルは単なる理想論だけでは動かせない、現実的な難題となっているのです。

それでも、私たちがこの課題に挑み続ける理由は何か。それは、いたって明快です。 衣服は、私たちの日常に深く結びついた存在でありながら、世界全体の環境負荷の大きな要因でもあります。これを見直すことは、単に「繊維業界の効率化」を図ることではなく、私たちの暮らし全体の持続可能性を高めるための第一歩なのです。そしてこれは、環境のためにやむなく行う義務的な取り組みではありません。むしろ、これまで私たちを楽しませ、支えてくれた衣服に、感謝を込めて新たな価値を与えるための創意工夫――その表れなのです。

構造の壁、コストの壁、市場性の壁。一つひとつの課題を真正面から見つめ、乗り越えていくことで、衣服の未来は変わります。無価値とされてきたものに新たな意味と役割を与え、循環する資源として再生していく。私たちは、それこそがサーキュラーエコノミーの実現であり、次の世代に対する責任ある選択だと信じています。








当社ではお客様からお預かりした廃棄繊維をボード化・シート化して、企業活動のお役に立つ新しい材料としてお戻しするサービスを行っています。古着、繊維くず、ユニフォーム、リネンなど、作業着やユニフォームに限らず繊維であれば何でもご相談可能です。詳しい事業内容をご覧になりたい方はGREEN FLAG事業紹介ページをご覧ください。




執筆者


有村芳文

株式会社GREEN FLAG 代表取締役。




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