当社の考え
2025/06/17
「循環」が叫ばれる時代に、なぜ衣服のリサイクルは進まないのか

今や、衣服の大量廃棄やファストファッションがもたらす環境負荷は、広く社会に認知されるようになりました。テレビや新聞、SNSでは「サステナブルなファッション」や「アップサイクル」という言葉が飛び交い、消費者の意識も少しずつ変わり始めています。
しかし、その一方で現実の「衣服の循環」は、あまりにも緩慢です。いまだに国内の衣類廃棄物の多くは、焼却か埋め立てという処分に回されています。こうしたギャップはなぜ生じるのでしょうか。
その背景にあるのが、「繊維リサイクルは儲からない」という冷徹な経済構造です。理想と現実の乖離——それは、産業廃棄物処理業の仕組みをひも解いてみることで、浮かび上がってきます。
産廃ビジネスの「収益構造」とは
一般に「産廃業者」と聞くと、ゴミを回収して処分する業者というイメージがありますが、実際の収益構造はそれ以上に多層的です。具体的には以下の5つの柱で構成されています。
① 【処理委託費(処理料)】企業や自治体から受け取る基本の料金
② 【再資源販売収入】金属やプラスチックなど、回収した資源の再販売
③【サーマルリサイクル】可燃物を焼却して得られる熱エネルギーを売電・温水供給に転用
④【中間処理・選別料】粉砕や破砕、素材選別の加工手数料
⑤【補助金・制度連携】国や自治体の環境政策と連携した支援金など
このように、現代の産廃業は「物流 × 資源開発 × 加工技術 × 公共性」が一体となった複合型の産業です。だからこそ、儲かる分野と儲からない分野が明確に分かれます。 たとえば、鉄スクラップや廃電線のように市場価格が高く安定しているもの、建設廃材のように大量かつ定期的に発生するものは、収益が見込めます。逆に、家庭からの布や衣服のように小口で不規則に出てくるものは、採算が合いにくいのです。
衣服リサイクルが進まない「4つの壁」
繊維リサイクルが進まないのは、単に「やる人がいないから」ではなく、構造的に儲からない仕組みがあるからです。その実態を整理すると、以下のような課題が浮かび上がります。
混合・小口・不定期である
一般家庭から排出される衣類は、少量で散在しており、回収効率が非常に悪い。自治体回収も限定的で、安定供給には至らない。
選別・再資源化のハードルが高い
衣類には綿・ポリエステル・レーヨンなど多種の素材が混在しており、機械による自動選別が難しく、手作業による分類が必要なケースもある。選別と再資源化に時間とコストがかかる。
製品単価が極端に低い
衣類を再生しても、できるのは雑巾(ウエス)や断熱材、再生繊維などであり、販売単価が安く、利幅が取れない。
全体の排出量が少ない
廃繊維全体の量は、鉄スクラップなどと比べると桁違いに少なく、たとえば衣類は鉄の約40分の1しか発生しない。
このように、回収が難しく、処理に手間がかかり、売値が安く、しかも量が少ない。リサイクルビジネスとして見ると、極めて厳しい条件がそろっているのが衣服なのです。
それでも「やる価値がある」と言える理由
では、繊維リサイクルはビジネスとして成立しないのでしょうか。答えはNOです。確かに単体では儲かりにくいですが、視点を変えれば「価値のある事業」として成立させる道があります。たとえば、
顧客企業から出る制服廃棄を一括受託し、回収から製品化、納品まで一貫して行う
古着を再資源化し、吸音パネルやマットに加工し、建築業界や内装業界へ展開する
福祉作業所や地域の施設と連携して、仕分けや加工の一部を担ってもらうことで、雇用創出につなげる
このように、異業種との連携や社会課題との融合を前提にした設計を行えば、繊維リサイクルも小さな利益を積み上げることができます。そしてそれ以上に、「社会に貢献する企業である」というブランド価値が得られます。
「儲ける構造」より、「儲けられる仕組み」を
大量生産・大量消費の時代に終わりが見えつつある今、企業は「効率」や「利益」だけでは生き残れません。環境問題や地域課題とどう向き合うかが、次の企業価値を左右します。衣服は、誰にとっても身近な存在です。毎日触れ、毎日着ているもの。だからこそ、それがゴミになったあとの行方にも、私たちは責任を持たねばなりません。
現在、繊維リサイクルは主流にはなりにくい分野です。けれど、だからこそ挑む意味があります。既にできあがった「儲かる構造」に乗るのではなく、自らが儲けられる仕組みを創り出すこと。産業革命以降の産業発展とは違う角度の、社会発展です。それが、未来の循環経済における真の価値創造につながるのではないでしょうか。
当社ではお客様からお預かりした廃棄繊維をボード化・シート化して、企業活動のお役に立つ新しい材料としてお戻しするサービスを行っています。古着、繊維くず、ユニフォーム、リネンなど、作業着やユニフォームに限らず繊維であれば何でもご相談可能です。詳しい事業内容をご覧になりたい方はGREEN FLAG事業紹介ページをご覧ください。
